レビュー - ちょっとしあわせさがしねま(厳選集)

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1979年米、監督･脚本/ウィリアム･フリードキン、原作/ジェラルド･ウォーカー、音楽ジャック･ニッチェ、出演/アル･パチーノ(スティーヴ＝ジョン･フォーブス)、ポール･ソルヴィノ(イーデルソン警部)、カレン･アレン(スティーヴの彼女ナンシー)、ドン･スカルディーノ(潜入先の隣人テッド)、ジョー･スピンネル(第6分署警官デ･シモーネ)、ジェイ･アコヴォーネ(スキップ･リー)、リチャード･コックス(スチュアート)、他

物語はマンハッタンのハドソン河口に切断され腐乱した腕が浮いているシーンから始まる。それはセントラルパークで殺された大学教授、タイムズ･スクエアの安ホテルでベッドに拘束されナイフで滅多突きにされた男の遺体と、発見された場所がゲイの発展場であることや手口が似ているところからゲイによる連続猟奇殺人事件と断定された。
捜査本部長となったイーデルソン警部は犯人の好みそうな特徴を持った新人警官スティーヴにゲイストリートへの潜入捜査を命じる。スティーヴはノーマルで恋人もいる男だが任務が完了すれば2階級昇進という条件につられ引き受けることに。

彼はジョン･フォーブスという名で現場に程近いグリニッジ･ヴィレッジに部屋を借りるが、そこは先住者も隣人もゲイという環境。だが戸惑う彼に隣人の劇作家志望のテッドがよき隣人として接してきた事から俳優で公演旅行中の恋人や将来の悩みなども相談し合う仲となる。

深夜ゲイストリートにたむろする男の群の1人に身を窶したスティーヴが見たものはまさに刺激的で想像を絶する世界だった。彼らには嗜好によって細分化されたテリトリーがあり合図や符丁で交渉し安ホテルや公園などで事に及ぶ。更に最悪なことに"モテる"タイプのようでナンパされることも多い。そんな捜査の合間をぬって彼はまるで確認作業のように恋人ナンシーの元に通うが、日が経つにつれ切り替えが利き難くなりsexすらままならぬ彼に捜査を知らされていない彼女はしばらく会わない方がいいと言い出す。

そうこうするうち捜査線上に喧嘩っ早くステーキハウスに勤めていた経緯から凶器となったナイフの入手も容易だったスキップ･リーと言う男が浮かぶ。バーでもスティーヴが何度かコナをかけられた事があったためホテルに誘い出し犯行直前に逮捕するシナリオとなったが、彼らの生態を知らない刑事らの早計な判断によってあえなく失敗。

だがその頃既にスティーヴには劇的な変化が起こり始めていた。重要参考人として連行された自分やゲイであるリーへの非人道的な取調べや差別に憤り、時おり状況報告のため密会する上司イーデルソンにこのままだと自分はめり込みそうだから捜査を降りたいと訴え、隣人テッドの横暴な恋人に対しては単なる知り合いの恋愛相談の域を越え、部屋に戻るたび隣人が言い争う声に神経が逆立つ衝動を抑えられなくなりそうな感覚に囚われていたのだ･･･。

｢エクソシスト｣の6年後、フリードキンが仕掛けた過激な問題作、しかも主人公は当時絶好調だったアル･パチーノということで、当時最先端メディアだったレーザーディスク(LD)化は異様に早かった記憶があるが、今作をして囁かれたアルのホモ疑惑や当時まだ耳新しかった総レザー警官ｺｽやハードゲイファッション、映倫ギリギリのフィストファックシーンなどなどあまりに過激な内容に観客はドン引きし(笑)いまだDVD化されていない異色作。

この項を書くにあたり数十年ぶりに再見したが、｢エクソシスト｣同様まっとうな正義とはなんぞやなどとおためごかしな着地なんぞしてたまるかといわんばかりのやんちゃっぷりは、私的には正当派刑事ドラマ｢フレンチ･コネクション｣よりよほど暴れん坊フリードキンのセオリーとしかいいようがない快作と思うがどうだろう。
高級絨毯の上で｢おまえは宇宙で死ぬ｣と呟き立位で放尿する無垢な少女と同じく、殺されたのはテッドの恋人ではない絶妙にも思わず唸ってしまった。

N.Yダウンタウンの退廃と差別にまみれた路地裏、ナンシー以外男ばっかという汗臭い画面の中で、次第にパチーノの小柄で濃ゆい男臭い肢体がかわいく見えてくるから不思議。
今となってはお笑いのネタでしかないが、当時のハードゲイは退廃の最先端、磨き上げた肉体を究極まで痛めつけ喰い尽くしていく嗜好で、捜査に関わるまでは完全ノーマルだった主人公が、目前で繰り広げられる狂態にある意味怯えつつも次第にのめりこみ壊れ、ついにはパチーノの大きな瞳が泳ぎ始めるわけだが、潜入捜査という目的がありながらハッテン場に出没する時にはしっかり獲物を"クルージング(漁る)"する狂気が真に迫る。

また単なる正義感から始まった心優しき隣人テッドへの気持ちが彼を横暴に支配する恋人への嫉妬心に変わっていく様、彼にとっては極めて重要だったはずの恋人ナンシーに対する思いが希薄になって行く過程、真犯人を単に尾行しているはずがビミョーに誘い受けのストーキングっぽく変化していく様などは、当時確かに世間の嘴に｢モノホンでは？！｣と囁かれたほど真に迫り、パチーノならでは。

まるで目眩ましのように展開する刺激的なシーンの連続の中で犯人像が２転３転する推理ドラマとしても秀逸、犯人の動機も明確、間断無く流れるハードロックは常に観客を煽る。封切と同時に劇場に駆けつけ貰ったバンダナは黄色だった(笑)弁当包にはちょっと不適切(笑)
ちなみに今作でしょうもない外道っぷりだった第6分署の警官役ジョー･スピネルは、ホラーマニアにとっては自動的にわくわくスイッチが入っちゃうやつだったが、1989年心臓発作で惜しくも他界。激しく合掌。

by まいる

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