「DOUBLE BIND 4」「乾いた機械」より抜粋


「「「「「「「一筋の光さえもない地下の研究室

 床の所々に散らばった薄く靄のかかったような緑色の液体だけが僅かに光を放っている。かたかたと響く機械音、ぶんと電気の流れる音。人の気配は全く感じられない。

 その化物の誕生を喜ぶ者は誰一人いなかった。

 監視カメラだけが微かな機械音をたてながらその化物の動きを追っていく。この世に生れ出て初めての呼吸の音は、冷たい金属のベッドに染み込んでいった。

 固い装甲で覆われた身体を外気が急激に冷やしていく。皮膚が徐々に渇いていく。渇いてさらに固く、濃い色に変化していく。

 初めに何をすれば良かったのだろうと、化物はしばらくその暗い地下で考えていたが、答えは見つかるはずもない。化物は、のろのろとその鈎のついた足を踏みだした。足に緑色の液体が絡み付く。

「「「「ああ、喉が渇く。

 機械の音のさらに遥かに、ざわめく生き物の気配があった。
 神経が逆立つ。
 その命の所まで行けと頭の中で応える者があった。
 きっとその命の所まで行けば渇かない。

 醜く、巨大な昆虫の身体をしたその化物は、軋むような声で一声高く吠えた。
 冷ややかで、横柄で、残虐な孤独。

     『CELLと呼べ』

 狂人に授かった、たった一つの愛情。
 セルの魂は、地獄で何を見たのだろう。
 ヒトの手で創造され、肉の身体を持った機械は、殺戮することだけがその存在理由になった。
 言葉になった。悦びになった。
 戦う事と喰う事だけが、人と化物との会話になっていく。

 ただの瓦礫に成り果てたビルの片隅で、今まで何やら訳の解らない事を喚いていた口がまた一つ静かになった。
 身体を覆っていた重すぎる装甲はとっくに脱ぎ捨てた。
 命を吸って進化した化物はゆっくりと顔を上げて呟く。

 強者の血を。
 わたしはまだまだ強くなっていく。
 強者の血を。
 強者の血を。

 化物の瞳が瞬く。



 Dr.ゲロの高度な科学力で、細胞レベルから合成された人工生命体、この世で唯一無二、絶対の強さを誇る殺戮機械「CELL」。
 図版は作中1stフォームと呼ばれる形態であるが、後に体躯をコンパクトにするため卵に戻るなどのエピソードから、卵→蝉の幼虫に似た幼生を経てこれに至ると推測できる。
 1stフォームは、中で最も昆虫に近いフォルムであり、背中には巨大な羽、主に生体エキスを吸収する役割を持つ尻尾、手足にはそれぞれ3指、足は特に必殺の蹴力を誇る。流麗にして耽美、斑の浮き出た皮膚は地の底の苔の緑、Z戦士中最大のピッコロを簡単に羽交い絞めにできる上背に恵まれている。
 尻尾の先にある器官からヒトの生体エキスを吸収する事で、吸収された相手の遺伝子レベルからのパワーや技、思考力を得る事ができ、最終的に同じDr.ゲロに開発されたサイボーグ17号18号を丸呑みにする形で吸収し、完全体となる。

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