『MATRIX』にカブセた裏解は詐欺だけど
娯楽アクションとしては超オススメだ!

ブレイド BLADE
1998年・米 製作:ウェズリー・スナイプス、ピーター・フランクフルト、ロバート・エンゲルマン 監督:スティーブン・ノリントン 脚本:デビッド・S・ゴイヤー 出演:ウェズリー・スナイプス、スティーブン・ドーフ、クリス・クリストファーソン、N・ブッシュ・ライト

 映画のおもしろさは、導入部すなわちツカミで決まると私は考えている。

 映画はエンターテインメントである。
 今まで名作傑作特A級といわれた映画の中には、導入部が非常にしょぼかったり地味だったりするために「見るべき部分」にまで根性が続かなかった作品も数多い。名作SFのソビエト作品は言うに及ばず、正直かの「ブレードランナー」でさえ少なくとも3回借りるまではおもしろい事に気づかなかった(笑)

 レンタルビデオの醍醐味は、家事を全て片付けビデオをセットしコーヒーと煙草とコントローラーを目の前に厳粛に並べ、再生ボタンを押すまさにその時、一般家庭のお茶の間が、始まりのブザーが響く場内のライトが落とされた映画館になる事なのだ。
 わくわくとときめき、これからどんなに楽しい時間が過ごせるかという期待感がこれでもかと高まっている数分間、根性が無いとついて行けない場面が延々と続くなんてこれ以上の苦痛はない。

 前置きが長くなったが、この作品を借りた理由は二つあった。
 改めて言うが、私は7泊8日レンタルがメインである。だいたい選ぶ基準がまずそこなのだ。新着の棚には、"何がなんでも今夜"見たくなったら困るので近づかないようにしている。
 この作品を知ったのはそういった旧作の棚でだった。7泊8日に指定されて間もなく、棚には10本近くあったにもかかわらず全部レンタルされている。

 パッケージの裏解を見ると写真はまるで「MATRIX」そのもの。主人公らしき人物のファッションは黒いレザーのロングコートにサングラス、そのSFXまでもがなんとなく似た雰囲気が垣間見える気がする。
 異なるのはそのセンス。「MATRIX」は作品そのものというか、TVCMやサイトでさえセンスアップされた世界観で統一された総合作品となっていたが、このパッケージを見る限りではそのワールドには遠く及ばない。
 特殊メイクのおデブさんは、ちょっとC・バーカーの映画作品さえもがカブっている。その上吸血鬼とくれば2匹目のドジョウを狙ったイロモノか。

 それにしても全部レンタル中というのがなんともしゃくにさわる。
 イロモノのくせに(おいおい(^^;)それほどおもしろい映画なのか、はたまたマニア間での情報が錯綜しているのか。どちらにしても返ってくるのを待つかという事で、ちょいちょい覗いてはいたものの何と、借りられる迄に1週間以上、これってそんなにおもしろいんか!と絶叫したい気持ちを抑えつつ通う羽目になってしまった。

 さて、お楽しみの導入部である。
 オープニングはどうやら妊娠しているらしい女性が瀕死の重傷で病院に担ぎ込まれ出産する場面であるが、これは伏線として置いておこう。
 場面変わって車の中の男女。女はパンク系の美人、男はそれに引っかけられた普通の男、これからお楽しみという話で盛り上がっている。女に導かれるまま入っていったのは肉屋の保管庫らしき生肉のぶら下がる倉庫。男は少しビビリながらも女についていく。その奥まった場所には、用心棒らしき男に守られた扉があった。

 中はディスコになっていて、男はその踊りの中に入っていくが、どうにも違和感がある。案内してきた女とはあっという間にはぐれてしまい、あたりの視線は男を値踏みしているようにも感じる。新顔だからか?否。どうにか馴染もうとしてはみるものの疎外感はなお一層増すばかりだ。

 ぽたっ。

 男の額に何かの雫が落ちた。指で触れるとぬるりとしたそれは血のような感触が。「冗談だろ?」と男の視線は天井にゆっくりと向けられる。

 DJが叫ぶ。

「血のシャワーだ!」

 全員の手が高々と上げられ、場内はみるみる真っ赤に染まていく。天井からは真っ赤な血がどうと降り注ぐ。男は絶叫しあたりを見回したが、そこで踊っていたモノたちは人間ではなかった。尖った犬歯を持ち、ケモノじみた歓喜の叫びをあげる吸血鬼ども。その中からいくつもの手が、エモノを捕らえんと男の身体に纏わりついた。

 絶叫し必死で出口を探す男。やっとドアらしきものを見つけたどり着こうとした瞬間、吸血鬼どもの動きが止まった。
 這いつくばった男の前に黒ずくめの黒人の大男が立っていた。

「やつだっ!」
「ブレイド!」

 その男はにやりと笑うといきなり銃を乱射し、その場にいた吸血鬼どもを片っ端から散らせていく。

 なによりアクション。かの「MATRIX」はカンフーアクションが一つのウリだったとは言えこれが無かった。これこれこの感じ、私たちに馴染みのダイレンジャーアクションの流麗。吸血鬼モノのお約束の「散るシーン」のCGもけっこういいレベルをかましている。たまらん。
 かかかっとアクションシーンが過ぎ決めポーズ。少しばかりくさくてもかまうこっちゃない。仮面ライダーに陶酔して以来私の身体はこの快感を忘れた事はない。うう、カッコイイじゃん。
 連射できる銃器、仕掛けがコマしてある刀、円月輪といったかブーメランを変形した諸刃の武具など、武器のセンスにも申し分が無い。ああ、メカフェチの血が騒ぐ。これこれこれだよアクションって言うのはさぁ。

 舞台はアメリカ。吸血鬼一族は人間と協定を結んでおり"ナイトウォーカー"と呼ばれ、おそらくその狡猾な頭脳と強靭な肉体、長らえてきた事で得られた豊富な知識から、都会のペントハウスに住み贅沢三昧、影で人間社会の政治経済を支配している。
 吸血鬼一人に一文字古代文字の印があり、吸血鬼になりたいと希望する人間は彼らの印をうなじに刻まれ家畜として全てにおいて服従している。

 また、その印は所有物という意味がある事にもあえて着目したい。主の吸血鬼が血を吸わせろといえば頚動脈を与え、おそらくパシリから夜伽までなんでもこなす故の家畜という表現なのだ。
 主でない吸血鬼が他の吸血鬼の家畜に手出しすれば主同士奪い合いとなり決闘になると言う。私の頭には白い手袋を相手に投げつける場面が横切ったりもしたわけだが、ふぅん、なるほど。
 中でけっこう綺麗めの若い警官が、ばかであるばかりにひどい目にあってたりしたけれど、もうちょっとお利口ならばフロストから美味しいご褒美を頂けてたかもって事か。ううむ。ガエタノとフロストの関係といい、この警官といい編集次第ではジャンルを越え思いも寄らない所でウケたろうに。

 主人公"ブレイド"は臨月の母親が妊娠中に吸血鬼に襲われ、遺伝子に吸血鬼のDNAを持って生まれたいわば吸血鬼と人間の混血である。
 13歳までは渇きに任せ吸血していたが、老吸血鬼バスター"ウィスラー"に拾われ共に戦うようになってからは、ガーリックエキス入りの血清で吸血鬼化を抑え、吸血鬼特有の強靭な体力と生命力を持ちながら、昼間でも活動できるという所から"デイウォーカー"と呼ばれている。
 総皮の黒のロングコートにサングラス、背中にはブレイド以外の者がうっかり手にすると仕掛けが働きその腕を切り落とすという刀。
 彼らの目的はただ一つ、「吸血鬼を根絶やしにする」事だ。

 吸血鬼一族は人種を問わず存在し純血種は12人。
 その統率をするのは"ガエタノ"。中年の紳士である。
 彼らは噛まれて吸血鬼となった者を外道として蔑視しているが、その一族の中で一際若く美しい"フロスト"だけは噛まれて感染した後天的な吸血鬼である。
 彼は外道としてもわがままでオレさま一番な性格も一族からは嫌われていたが、どうやらガエタノには彼を一族から外せない事情があるらしい。

 なぜ彼が一族になったのかという件には作品中触れられてはいないが、私のJUNEな鼻はガエタノとフロストの微妙な関係を決して無視できない(笑)。次回作ありならば、ぜひともそこの所はしっかり語って頂きたいと切望するばかりである。

 冒頭のディスコでブレイドが火刑にしたフロストのパシリの"クイン"の焼死体が収容された病院でブレイドが出会ったのがヒロイン"カレン"である。
 彼女は血液学を専攻している優秀な医者であるが、吸血鬼のDNAの謎があっさり解決しちゃったり、簡単に治せる薬が出来ちゃったりする所はご愛嬌で、彼女に言わせると吸血鬼化は噛まれて感染する質の悪い性病の一種に過ぎないらしい。
 また医者という設定にもかかわらず、あっさり銃器が扱えちゃったり、現場に立った途端アクションもそこそこにこなせちゃったりするのもご愛嬌という事にしておこうか。そのへんあたりが劇場公開ではなかった所以なのだろう。生意気そうなつんと尖った鼻の黒人のないすばでいな美人さんである。

 後半、フロストが吸血鬼一族をも含めた闇の王、血の神マグラの復活を目指す所あたりから、すっかり初めに考えていた「選んだ理由」からはかけ離れてくるが、それはそれでその頃にはすっかり物語りにのめり込んでいる。

 ブレイドの血清を打たないと吸血鬼化してしまうという悲哀、ガエタノとフロストの微妙な関係の妙からガエタノ殺しに至る経過、ウィスラーの吸血鬼に対する憎しみとブレイドに繋ぐ思い、流麗なアクションと生臭くないCG。所々に散りばめられている東洋趣味。

 冒頭いきなり、吸血鬼は何に弱いかというくだりでニンニクが出てくるが、「これはニンニクエキスだ」と言いつつ、どう見てもすりオロシニンニクまんまの絞り汁を頚動脈に注射するあたりは胡散臭さが隠せない。
 血の神マグラに関してはここでは多くを語るまい。邪神だからこの程度とでも思っておけばいい。

 アクションに関してはワイヤーアクションも含めて、かなりいいレベルにあると思うが、やはりなぜか「MATRIX」がちらつくんだな。公開年を見ると確かにあちらの方が後なんだけど、ご丁寧に爆走中の地下鉄の真ん前を横切る例のシーンや、パターンや目線は違うが高速弾丸よけのシーンもあったりして。まぁそれもご愛嬌と思っといた方がいいかもしれない。

 「MATRIX」がたたき台になったのか、それともあちらがこちらをたたき台にしたのかは筆者の範疇ではないし、ギョーカイの裏事情に詳しいお人にお任せするとして、カブる所は数々あれどこれはこれでいい味出してると思うので、ちょっとお時間ある方は一見の価値ありとオススメしておこう。
 もっと言えば、「MATRIX」のアクションではヌルいと怒っていたお人にはちょっとプッシュしたいかなと。また、件の作品を見ていないお人にはちょっと待てと。まず「MATRIX」を見て一頻りその世界観に没入し酔いを覚ました後で、この作品にはかかって欲しいところである。

 END



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