閉鎖空間での濃ゆい芝居がたまらない。
アイデアとシナリオは低予算映画のカナメだけど単館上映だったのはなんとなく納得かも。

キューブ CUBE
1997年・カナダ 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
出演:モーリス・ディーン・ウェント、デヴィット・ヒューレット、ニコール・デボア

 短編である。
 たまらない。こういう脚本は大好きなのだ。

 目覚めた場所は、意味不明の正方形の部屋だった。
 壁には上下左右に一つづつ出入り口らしき物が付いているだけ、食べ物はもちろんトイレらしき物さえ見当たらない。
 なぜ自分がここにいるのか、どうやってここに来たのか、連れてこられたのか。まったく記憶は欠落している。
 とにかくここから逃げ出さなければ。

 男はその扉を恐る恐る開けてみるが、その向こうには、同じ正方形の部屋があるだけで、違う所は部屋のライトの色くらいでそっくり同じ作りになっている。
 男は勇を鼓して、次の部屋に踏み込んだ。

 と、その瞬間、何か微かな音と共に、男の身体は正方形に切断される。
 四角い肉片となって崩れ落ちる男。
 男を切断したのは、その部屋に仕掛けられた罠で、その作業を終えるとリズミカルにぱたぱたと畳まれて再び壁に消えていった。

 オープニングからかなり引っ張ってくれるじゃない!と、思わず腕組みをして唸った。にやりと笑いが込み上げた。

 出ているのは男が4人、それと若い女とおばちゃんである。
 目覚めた時、それぞれが身包み剥がされ、改めて胸にコードネームの入った囚人服のような物を着せられていた。身に付けていた物の中で、残されていたのは紐の付いた靴と、学生の眼鏡だけ。

 クエンティンは黒人の警官である。家には9歳を筆頭に男ばかり3人の子持ち。女房とは離婚している。熱血体育会系の直情型。腕っ節にはかなり自信がある方だ。人生の生きがいは子供だと言ってはばからない。当初グループのリーダーに名乗りをあげ、頼りになりそうな感じはあるのだが・・・。

 死んだような目をした男はワース。設計技師。悪く言えば覇気がない、良く言えば中で一番落ち着いている男。特技取り柄は何も無し、ただ当たり前に生きていただけと言い切る。厭世感に打ちのめされているように見えたが果たして・・・。

 ハロウェイは年配の開業女医である。おそらく世間にいる頃はばりばりのキャリアで、ぶいぶい言わせていたらしいが、変わり者だったとも思われる。独身。政府の陰謀だのエイリアンだのと、想像力はたいそう逞しいらしい。独自の道徳観念と正義感を持つ。こんなわけの分からない所に閉じ込められて悔しいと思わないのっ?!と脱出に燃える。

 レブンは数学専攻の女子大生。物語の中で唯一の花。私なんか7歳の時から人生退屈でもてあましていたわよ!といって憚らない。が、ぐれてるわけでもない。この人間像はどこかで見た事があるぞと思ったら、ターミネーターのあのおかあちゃんの巻き込まれ以前だ。彼女の明晰な頭脳はのちに、彼らを救っていく事となる。

 レンは脱獄のプロである。という事は犯罪者でもあるわけだな。アッティカの鳥という異名を持ち、今まで7つの刑務所から脱獄した男。探知器と仕掛けに関しては膨大な知識と経験を持つ。彼がアッティカの鳥であるという事が判明した時、全員が胸なで下ろすのだが・・・。

 途中参加は、知的障害者のカザン。当然の如くにグループのお荷物となり、女医のハロウェイがその保護者的な役割に当たる。声の仕掛けの所では彼のせいでクェンティーが死にかけるが、彼の天賦の才能は、後になくてはならない物となっていく。

 その立方体"キューブ"は、外装の一辺が約130メートル。外装と中に仕込まれた小部屋との間には空間があって、中には17576部屋の同じような立方体の部屋があるらしい。
 天井と床の区別も無い。立っている足元が床で、頭上があるのが天井なのだが、その区別はまったく無いと言えよう。

 それぞれの部屋には、9桁の数字が付けられていて、どうやら罠のある部屋と無い部屋の暗号になっているらしい。
 扉は各面に一個づつ。一部屋に計6枚。壁面には梯子上の仕掛けがあって、天井の扉にもそれを伝って入れるようになっている。
 定期的に聞こえる機械音とそれに伴う振動。何かがどこかで動いているらしい。

 数学なのだ。
 素数から始まって、デカルトの座標だの、座標上を移動する点を現す順列だの・・・。PCを始めて手にした時の解らなさくらいである(笑)

 素数は知っている( ̄^ ̄)。それがそれ以上割り切れない数であるまでは確かだが、今ここで言ってみろと言われると3とか7とか一桁の数字しか思い浮かばなかった事も事実である(笑)。で、その先は何がなんだかさっぱりだ(笑)。
 私の頭は正直な所、クエンティンとタメである。
 そ、それはどういう事なんだ?!と困り果てた顔で聞く彼に、解るぞ〜(^^;と同情したのはおそらく私だけではあるまい。

 この映画で語れるのはここまでである。後はただ見てみる事をオススメしたい。

 この物語の登場人物に悪人はいない。
 それぞれが精一杯生きていたのだろうし、それが正しいと信じてきた道だったに違いない。
 結末は差し控えておくが、ただ一言、平和的に物事全て丸く収まり、やぁ良かった助かった、あんたのおかげさまだよ、いやいやそちらこそ、ご尽力していただいてとお互いの肩を抱き合うラストではなかった事が、返ってこの映画の質を高めていると言っておこう。

 この気違いじみた閉鎖空間で、いったい彼らに何が起こるのか。起こっているのか。それを彼らに与えられた生き延びるのに最小限必要なアイテムと知識だけでどう切り抜けるのか、抜けられるのか。
 緻密に仕込まれた罠と伏線。計算されたシナリオをどうぞ、ご堪能あれ。

エレヴェイテッド ELEVATED
1995年・カナダ 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ

 このビデオは2本立てである。  『キューブ』のエンディングテロップが流れ終えると、前衛的なホラーっぽい作品のオープニングが始まった。あらあら、これはメガテン第一作みたいに「そして・・・」ってやつかしら、それとも劇場版予告?と思いながら見ていると。

 登場人物は今度はたった3人に絞られる。あとは顔も映らないモブがあるがそれはこっちに置いとこう。

 舞台は地上44階、地下4階のビルのエレベーター。

 女の名はエレン。30代半ばくらいであろうか。中流家庭の平凡な暮らしぶりと見た。彼女は今地下4階にある駐車場に向かう所である。
エレベーターは順調に降りていったが、途中22階で乗り込んできたのは、50に差し掛かろうとした年格好の肉体労働者ベン。同じく地下4階まで行くらしい。

 エレンが、乱入者の次第に荒くなる息遣いに恐怖を感じ始めた頃、エレベーターはどうやら4階まで無事に辿り着きドアが開くが、そこには誰もいない。その扉が閉まろうとした時、誰かの待ってくれ!というせっぱ詰まった声がする。
 エレンは思わず開くボタンで受け入れるが、入ってきた男の姿はとてもじゃないが尋常とは思えなかった。
 背広の胸から腹にかけては血がべっとりと滴っており、慌てふためいて入ってくるなり、手に持ったカードでエレベーターを操作不能にし、せっかく後数階で地下4階に辿り着こうとしていた所をいきなり上昇させ始めた。

 30代くらいと思えるその男の名前はハンク。エレベーターの管理会社の人間だという。
 当然のようにベンは怒り、閉所恐怖症の発作を起こしかけ、エレンはパニックになる。どうしてそんな事するのっ!!と責めるエレンに彼が説明した事は。
 今地下には映画の「エイリアン」のような怪物がいて、人を襲っている。地下は既に累々と死体の山があり、自分も命からがら逃げてきた所だ。このまま44階まで上がれば助かる。自分が救うから任せろと。

 いきなり言われて信じられるか、そんな事(^^;。
 エレンじゃなくたって、たとえエイリアン大好きの私でさえ信じないと思うぞ。しかもあんたは血だらけだし、その血はあんたの物じゃないじゃんか。

 20分も無い短編映画である。
 しかもエイリアンは出てこない(笑)。
 おそらく金をかけたのは、血しぶきメイクと死体メイクに尽きるだろう。
 これもまた、閉鎖された空間で起こる悲喜交々である。

 この監督。
 このまま売れてしまって、総費用何十億という大作を任されたりしないといいが。
 出来れば珠玉の名作といわれる作品を極めて欲しいものである。

 END



「満月夜には恐怖映画を」扉に戻る
タイトル一覧に戻る
ジャンル別短編感想文投稿板/ちょっとしあわせさがしねま

夜会大扉に戻る