その安酒場は「オッパイぐるぐる」って言うんだ。
こんなにブチ切れたホラーはバタリアン以来だね。

フロム・ダスク・ティル・ドーン 
1973年・米 監督:ロバート・ロドリゲス 脚本:クェンティー・タランティーノ 出演:ハーベイ・ケイテル、ジョージ・クルーニー、クェンティー・タランティーノ

 ほら見ろ。考えてた通りじゃないか。
 物語はいきなり、キレた兄弟銀行強盗による殺戮シーンから始まった。
最近ほんとにいやなんだよね。こういう「快感な殺人シーン」がふんだんに盛り込まれてる、英雄気取りの悪役が主人公の映画が多すぎる。

 うらぶれたちんけな酒屋でだれだれ店番してるにぃちゃんは蜂の巣にされた挙げ句火だるまで悶絶、人質の銀行員のおばちゃんは切れた弟(タランティーノ)に犯されて殺される。
 うわぁ...こないだ『ある連続殺人犯の記録〜ヘンリー』見てからというもの、こういう殺人シーンに創意工夫しただけの映画って、しばらく見ないようにしてたのに。また今夜もきっと飯がまずくなる。

 ただ、銀行員をやみ雲に殺してしまった弟に激怒する兄貴のセリフにふと引っかかりがあった。

「おれはプロだ!強盗には強盗なりのルールってもんがある!!
人は殺さねぇ!警官も殺さねぇ!人質は取らねぇでできねぇのか!!
おめぇは『賢くやる』って事を知らねぇかっ!」

 ...どうせそう言いながら、ほぉら、おめぇのせいだとか言いながら殺してくやつなんだきっと、この兄貴。
 いやだなぁと思いながらもがんばって見てたのだが、とにかく9月10月の主婦は忙しいのだ。電話は鳴る友人は来るで、なんだか途中ブツブツ寸断されながら見ていたのだが。

 その銀行強盗"ゲッコー兄弟"はそこからメキシコとの国境に向かう。
 何せ人質を殺してしまったので新しい餌食となったのは、妻を亡くしたばかりの神に絶望している元神父と年頃の娘、東洋人とのハーフの息子の3人家族。
 彼らが乗っていたキャンピングカーを強奪し、彼らを脅しながらまんまとメキシコへとたどり着くが、そこで暮らすには、メキシコ人としての偽の証明書がいる。

 殺された銀行員のおばちゃんには気の毒だが、今度の人質は頭が良かった。
ただただ逆らわないばかりではない、やはりそこはついこないだまで神父だったというだけあって、話の説得力も違う。
 父親は60代くらいの初老で、息子娘はそういった家庭に育っているような、贅沢ではなかったものの、穏やかで判断力にもすぐれている。
 要するに、ただただ脅え犬ころのように言いなりという家族ではなかった。

 メキシコで偽の証明書を手配してくれるという仲間との待ち合わせは「ティティー・ツイスター(おっぱい・ぐるぐる)」というど派手なバーだった。
 そこで夜を明かし、夜明けには仲間が証明書を持ってやって来て、まんまと俺達はメキシコ人だぜぇ!!とゲッコー兄弟のテンションは上がりまくりである。

 バーの入り口では、下品な呼び込みがこれでもかというくらい「プッシー」を連発しながら絶叫している。
 こりゃ〜すげ〜な(^^;...昨今日本の場末でもこんなにど派手なキャバレーは見た事がない。あちらはこういったキャバレーちゅうのはけっこうありがちなのか?それにしてもなにか笑いが込み上げてくるほどふざけた派手さである。

 ああ、この家族はこの中で犯されたり殺されたりしちゃうんだろうなぁ、いやだなぁ(まだ言ってる(笑))んで、この兄貴が言うんだよ?きっと。
 「おめぇは本当にドジなんだからよぅ!殺すなって言ったろぅ?!!」(^-^;;

 中に入ると、テーブルの上やらお立ち台で、ないすぼでーのおねぇちゃんたちがくねくね踊りまくっている。

 このゲッコー兄弟の弟は変態である。
 女と見れば犯したがるし幻聴もよく聞こえるらしい。女が突然振りかえって「私のアソコをなめて」とねだるのだ。男はみんな自分をちくりたがっているように聞こえることもある。その目線。変態の目線でカメラが舐めるように女の姿態を撫でてゆく。
 こりゃ〜すげ〜(^^;(こればっか)えへえへ。

 こういったシーンはよく目にするがこのカメラはいやらしい。がしかし、ぞっとするいやらしさではないのだ。何と言ったらいいのか、エンターティナーないやらしさとでも言うべきか。とにかく観客を飽きさせない。
 おねぇちゃんが踊るのを見て、私がむらむらするわけがないのに、なんだか落着かなくさせるのは確かで、それもそういった淫靡な踊りの中に「あ、今、切れるかも」と言うスパイスがふんだんに撮り込まれているからかもしれない。

 画面は、ぱんぱんぱんっ!とスピーディーに変化する。
 そういった騒々しさの中で今それぞれの状況は心情はどうであるかが仔細に語られていくのだ。

 ぐねぐね踊るおねぇちゃんの画面を見ながら、その父親である元神父の胸締め付けられるような悲しみが伝わってくる。
 ゲッコー兄弟の兄貴の男っ気やプライド、彼の守っているものがなんであるのかとか、これから物語の進行上重要な役割を果たしていく人物像が次第に鮮明になって行く。それらがひとまとまりの情報となって、まるでテレパシーの如くにこちらに伝えられて行く。それが少しもうるさくない。上手い。すごい。

 ここらで観客は初めて気づくのだ。
 あれ?これって快感殺人な映画じゃなかったのか?
 ここで偽の証明書を手に入れて、人質が解放されるなり殺されるなりして終わり〜?(^^;ちょっと待ってよ。

 ここが上手い。観客が次の情報を欲する状態に追い込まれる。
 ここからが物語の本番である事に気づかされていく。
 相変わらずぐねぐね踊るおねぇちゃんたちに、もういいよと思った瞬間、次の展開が待ち受けているのだ。

 ゲッコー兄弟の弟は左手に銃弾が貫通している上、それを更にナイフでえぐられていて、半身血まみれ状態である。
 その血を見ているうち、「ティティー・ツイスター」の女王が、おかしくなってゆく。
 カメラが、弟の血まみれの手をなめる。
 弟の手を突き刺し、突き刺した相手の胸を抉ったナイフには緑色の血が。

 え?え?なに??何が起こってるの?なんだか画面が派手でうるさくて暗くてよくわかんない!!
 女王の顔が突然変化する。
 蛇の顔だ。蛇だ蛇だ!!!やだっ!!聞いてないよ!!!蛇だったんじゃんこの女(爆)!!

 ををを!!!!!!やっぱホラーだったんか〜〜〜〜〜!!!!!!!

 そうなのだ。
 この瞬間、踊り出したくなるような快感があったと言っておこう。
 前説がうっとおしかったわけでもない。ここまで退屈していたわけでもない。
 いわゆるここまでは前菜。オードブルに過ぎなかった事に初めて気づかされる。
お楽しみはそこからなのだ。
 私たち観客は、まんまとこの料理のシェフに翻弄されていたのだ。

 もうその後は快感というか、なんというか。
 ホラーファンが随喜の涙を流すというようなお約束のシーンがこれでもかというほど展開されていく。
 中でも変化したツワモノの黒人の吸血鬼が、餌食が逃げた方向を黙って指差し、そこにコウモリが群れなしてゆくシーンは、美しくさえあった。
 初めてゾンビが全力疾走してしまった瞬間を目撃した時の気分だった。
 あああ!!こんなにしちゃってぇ!!みたいな。

 とにかく一見の価値ありである。
 このゲッコー兄弟の兄貴は、最後までプライドを持って生き抜いていくが、悪党のくせにとにかく優しい。強い。たまらないキャラクターとなっているのも着目に値する。
 散りばめられたジョークにも、ぷぷっとするようなオプションさえついている。

 贅沢で、満腹な作品である。

  END



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