近年「女優霊」だの「後霊術」だのとホラーの秀作を続けて見る機会があって、こりゃーしばらく洋画専門で来てたけど、知らない間に邦画もかなりなラインになっているかもと、某ホラーカテゴリーの掲示板でトピックスを立ち上げ「最近おススメの邦画ホラーは?」と聞いた所、最近話題だった「黒い家」とか「うずまき」とかに混ざってこのタイトルが上がった。
しかし、何で邦画ホラーというといつまで経ってもアングラ臭く自主映画っぽいんだろう。超大作って言うと俳優女優にやみ雲に巨額が投資されるだけで、監督脚本は御大にお任せだし、ご家族でどうぞというと必ず有名タレントのお笑い路線か定番のアニメ。
その中でのホラー&SFというと更に条件が狭まるのは当然で、テレビでよく見るタレントが、金切り声を上げて似非SFXの着ぐるみに追いかけられてるか、もしくはやたら狂った演技で訳の分からん事を喚き散らすのだけが見せ場なんて、洋画じゃD級、演技脚本監督がどうでも、そのタレントのファンが映画館に押し寄せるのは日本ならではだと思うんだけど。
ねぇ。何か質のいいのはないかなぁ、自主映画っぽくてもいいからさ、ともかくこれぞというのを教えてというと、決まって出てくるのが「鉄男」。いいけどさ、いきなり血しぶきハラワタ散らばりまくりカルトでマイナー、これを見てなきゃマニアじゃないなんてぇ講釈が付いてるのは、あくまでも趣味の問題であって「怖さ」の点では当てにならない。
「身の毛がよだつ」って言うやつさ、そういうのはないかなぁと投げかけつつ、待ち続けた中で、唯一このタイトルだけ知らなかったのが引っ掛かってた。
怖くはないけどいいと思います、セールスマンと主婦の話ですと書いてある。ともかく制作はずいぶん前らしいし入手できるかどうかが問題かと思ってたら、ある日「マタンゴ」を探し中に偶然棚の隅で見つけたのだ。
こういう出会いにはこだわる方なので結局いそいそと借りてきた。
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主人公は、幼稚園の男の子を持つ専業主婦(高橋恵子)。
亭主はコンピューター関係の技術者で帰りも遅いし残業ばかりでほとんど家にはいない。住いは近郊のちょっと高級げなマンションで暮しぶりも悪くない。
家の中はきちんと整理され清潔で、唯一人付き合いが上手い方ではないという事くらいが欠点の主婦。というか妙なプライドがあって、そこらの主婦と一緒にしないでよ的なニオイもある。
子供を持つまでわりと時間がかかったような夫婦でもあり、双方子育てに関しては不慣れでマニュアル本意、亭主は不在がちだが家庭は大事にしているタイプ。ようするに絵に描いたような個人主義の現代的夫婦と言えるだろう。
そこに一人のセールスマン(堤大二郎)が登場する。
彼の暮しぶりはその夫婦に比べかなり差し迫っていて、業績は振わずいまだ独身、今日も今日とて、ケッコーケッコーと玄関払いされ続けていたのだが・・・。
二人にとって出会ったそのものが不幸というか不運というか。
どこでだったか、セールスマンがふと彼女に気づくんだね。鼻先でケッコーよ!とがーんとドアを閉められたり、このくそババア!と思わず悪態を吐きたくなるような扱いを平然とするおばちゃんたちの中で、彼女はそれはそれはイイ女に映ったわけで。
小股の切れ上がったというのがこういうのを言うのかは知らないが、ともかくおしりである。70年から80年あたりの、まだAVという言い方が十分に浸透してはおらず、外国ものはノーカットがふんだんに流通しており、エロにストーリーというものが紛いなりにも存在していた頃の。「団地妻・・」とか「**屋ケンちゃんがなんたら」からそのまま抜け出てきたような豊かで慈愛に満ちていてそれでいて淫靡なおしり。おケツでもなくケツでも尻でもなく、「おしり」。
彼女はその豊かなおしりをこれ見よがしに見せつけながら彼の鼻先を通り過ぎる。
悪いけどこれは主人専用なのよ。あなたみたいなパンピーが拝めるだけでもありがたく思いなさいな。と、これはそういう台詞があるわけではないけども(笑)おそらく彼はその時そう感じたに違いない。彼女の豊満なおしりはそうきっぱりと言い切って通り過ぎたのだ。
思わず後をつけるセールスマン。彼が彼女とコミュニケーションするには、ナンパでは不可能。じゃあどうするか。玄関にセールスに伺っちゃうんですね(笑)。
ドアのチャイムを鳴らす、中からドアフォンで返事が聞こえる。ああ、あの奥さんこういう声だったんだ。まず開口一番冷徹に断られはしたがそれもまた楽しからずや、もう少しもう少しと思うその売り文句にも力がこもる。
で、ドアを少し開ける話になっていくんですね。で、セールスのプロとしてはわずかに開いたドアの隙間に靴先を挟み込み話を引き伸ばそうとする。奥さんそこで始めて非常によくない状況だと判断したのか必死で開けられまいとする。
暫し引くの押さえるのとやってるうちにガーンとひどい音がしてドアが閉まった瞬間、男が外でうめく。また嘘を言って開けさせようとしてるんだわ。許せない!・・・でも呻き声は普通じゃない。ドアレンズから覗いてみる。誰もいない。呻き声がする。次の瞬間、男の目がアップになる。魚眼レンズを通して見るそれは、人相こそよく判らないが苦痛に歪んで恨みがましくこう言った。
・・・・・しーん。
身体の震えが止まらない。まだいるかもしれない、ともかく亭主に電話をかけるが、残業になると言われてしまう。一瞬かっともするが仕方がない。
そうだ!子供を幼稚園に迎えに行かなくちゃ。・・・ってそうなんだよねぇ、なんでこういう時でも子供の事考えちゃうかねぇ。くー、わかるなぁ。
恐る恐るドアを開けてみると、ドアの外側は靴跡で泥まみれ。所々に血痕らしきものも付いてる。うああ、ほんとに指イっちゃったんだ。ヤバイ怖いまずい怖い、でも自己防衛だし。警察になんて言おう。言わない訳にはいかないわ、だって主人は残業で遅くなるし、これから子供も迎えにいかなくちゃ。きっと絶対ありのまま話せばきっとわかってくれる。だって警察は正義ですもの。
泣きそうになりながら、周りを気にしながらもドアの外を拭き上げて、子供を迎えにいく途中の交番に寄るが。男の顔は?と聞かれて呆然とする。
そうなのだ。男が誰か判らない。どんな風体で人相はどうで、本当にセールスマンだったかも定かじゃない、だって話は聞かなかったし。ふうん、それでドア閉めたんですか?勢いよく?だってあっちが外から開けようとするからっ!ハイハイ、書きましたよ、わかりましたよ、で? 相手は指を挟んだと。けがもしたみたいだと。そうですだって怖かったんだもの、靴先がドアに挟まってて入られると思ったんだもの。必死だったんだもの。・・・へええなるほどねぇ、ま、またその男が来たらいつでも連絡して下さいね。
マンションに着くと郵便受けになにやら異物が入っている。手紙や葉書じゃない。汚れたティッシュに包まれた何か。恐る恐る開けてみて思わずもどしそうになる。包まれていたものは血に汚れた男の爪だった。思わず玄関ホールのごみ箱に捨てようとするが、管理人の目がある。仕方がない。どうしてもこれを家まで持って帰れってか。
子供は駄々をこね続け、ソファーに大の字になってぐずってる。ティッシュはそのままトイレに流した。
やっと子供が駄々こね疲れて寝静まった頃、電話がある。一本は亭主からで、昼間の電話を気遣っているもののどうにもできない状態というのが確実と言う話。もう一本は男からだった。・・・
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・・・と、ここから先は、書いてもしょうむないのだ。
高橋恵子の根っからのファンであるなら、ここから先の男とのモタいアクションシーンがえっちくさくてたまらないというお人もいるだろうし、カメラワークが面白かったというお人もいるだろうし、中にはSFXの資料に(なるか?)というお人もいるだろうし。
男との電話以降、言ってみれば尋常ではない状況に置かれた男女の連帯感にも似た愛の芽生えだとか、団地妻なになにという系のビデオになりそうな雰囲気もあるのだがならない(笑)。それも確かに盛り込みたかった気持ちは解るが、失敗しているというか、ただのノイズというか。・・って、自分が始めになにを期待してたんだか、この時点ですっかりぶっ飛んでいるという所が、この作品の面白い所かもしれない。
で、ここで書くのもなぁとも思うが、いわゆる「女の強さ」というものが表現したかったのかもしれないとも思うが、完璧に間違ってる。追いつめられれば、標準装備の女は、こんな風にわざと男の気を引くような姿態を見せびらかすような真似はしない。それは己の命取りになるからだ。
申し訳ないが中盤以降のアクションシーンで、この主婦は明らかに男を誘っている(笑)それが本意でないとすれば、よほどのあーぱーか世間知らず、もっと言わせてもらえば、全ての男性向けエロ本の原点である「このアマ、淫乱のくせに」の世界である。私はウーマンリブ(死語か?)の提唱者ではないがこれはまことに許せんなぁと思いつつ目はすっかりオヤジである。件の業界用語で言う所の「誘い受け」というやつだ。
お尻は小さい方がいいという流行でこういったデブではない豊満な臀部というのにもなかなかお目にかかれなくなってしまった昨今、下手な強姦ものビデオよりよっぽど淫靡で、そういう意味では秀作であるとも言えよう。これをホラーのトピでいいと書いたやつ出てこい状態である。
これはこの主婦とうっかり出会ってしまったセールスマンの不幸話に他ならない。ホラーではないアクションでもない、別に胸に迫るものもない。
ただ堤大二郎のキレ方はけっこうキていたし、高橋恵子のおしりはたまらなかった。高橋ファンにはぜひオススメというかイチオシだが、確か監督と女優は夫婦ではなかったか?・・・ってちょっと調べもしたんだが定かではなく、私自身芸能通ではないので不確かだけど。なんだか遠まわしに「俺の女」自慢をされてしまったような感は否めないので、ちょっと悔しい思いがある事だけは特筆しておかねばなるまい。
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