小泉今日子がどうしてここに(笑)
この傑作をJUNE的に見るなんて私にゃできん。

踊る大捜査線 THE MOVIE
1998年・日 監督:本広克行 脚本:君塚良一
出演:織田裕二、柳葉敏郎、いかりや長介、ユースケ・サンタマリア、小泉今日子

 公開当時巷では、どちらが受けとか攻めとかそういった話題で持ちきりだった。少なくとも私の周辺では(笑)・・・。

 この作品はテレビドラマからのファンだった。でも私は周囲のそういった声とは少し違った事で密かに感動していたのだ。
 だって『太陽に吠えろ!』とかとぜんぜん違うじゃん!かっこいいクールな刑事も出てこないし、みんなあだ名なんかで呼んでないし。

 前者のそれが嫌いだったと言えば嘘になる。私は金曜8時は『太陽に吠えろ!』のために残業はなるべく避けていたし、マカロニが死んでは泣き、松田優作の熱烈なファンになり、スコッチに心酔し、沖雅也はいまだに遺影を偲んでいる(笑)
 途中『西部警察』とか何とか数々の刑事ドラマはあれど『太陽〜』は長年、私の心のオアシスだったのだ。

 が、しかし。

 織田くんのだらけ方には好感が持てた。適当でいいじゃんと言いながら、でもやっぱりと事件と関わっていくところがたまらない。これぞ理想のリーサラである。
 映画では、確かにギバちゃんのきんと張り詰めた神経質は健在で、何かきっかけがありさえすれば壊れていきそうな危うさは、彼女たちのはぁとをがっちりと捕らえた事だろう。
 二人の間にある、それと無い気遣いや思いやりは、確かにそれをして攻めか受けかの話題をかっさらえるには十分な要素もあったと思われる。

 副題をつけるとするならば、「今日も今日とて湾岸署は大騒ぎ」と言ったところだろうか。
 警視庁の副総裁の誘拐事件を柱とし、パソコンオタクの猟奇犯罪、署内での窃盗事件などなど、湾岸署署員には寝る暇も無い。

 中でもパソコンオタクの猟奇犯罪で作られた死体には、来た来た来た〜と歓喜の涙。腹の中に白いくまのぬいぐるみが入れられていたのだ。しかもそれを縫合した糸は刺繍糸。このシチュエーションはたまらない。
 私にとっては誘拐事件や窃盗事件はどうでもよかった。
 ただこの猟奇事件の結果だけが聞きたかった。

 が、物語は湾岸署の管轄で起きているので、簡単にそこだけという話では進まない。いくつもの事件が、重なり合い影響しあい署員の視点から紡がれていく。

 ああ、この感じは比較するのはおかしいかもしれないが『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の時間差攻撃に似ているかもしれない。とにかく息をつかせないのだ。全ての事がすれすれで、表面張力ぎりぎりのところでこぼれない。

 織田くんはいつもぎりぎりで現場で働いてるし、ギバちゃんは眉間に皺を寄せ考え込んでいるし、女史はいつも机の中に用意してある辞表をちらと見る。
 長さんはせっせと靴底を減らし、上司は折あらば楽する事と、なんだか解らないがやって来てしまって上に陣取っている本社の連中の点取りに余念が無い。
 新しく配属されたおねーちゃんは上がったばかりの水死体を見に行かされ、ユースケ・Sはその中で唯一冷静にパソコンで資料を集めていく。

 一本取られたなと思ったのは小泉今日子。
 くまさんのぬいぐるみから始まった猟奇事件のカギを握る人物である。
 ちょっと某映画のナニがナニしてと思わないでもないが、そんな事はどうでもいいのだ。ここは湾岸署なのだから。
 本庁の連中が円卓を囲んでいるシーンは、わざと空々しく特撮ものっぽいところもたまらない。そうそう、このいい加減、このシチュエーション。

 「事件は会議室で起こってるんじゃない、現場で起きてるんだ!」と織田くんが叫ぶのはずっと後半になってからである。

 途中これはたまらんと思うところも無きにしもあらずだが、それもよしとしよう。テレビのファンを引っ張るのは、映画版のお約束であるし、言ってみれば視聴者サービス。このシーンに涙したその筋のお方も決して少なくなかったと思う。

 最後にはきちんとそれぞれの事件を決済し、それぞれにちくりと来るシーンがあるのがたまらない。

 テレビ版とはまた違う味付けにし、大元のそれよりでしゃばってはいず、見ためはそのまま、しかし豪勢かつ繊細な一品料理に仕上げた脚本と監督に拍手。 昨今に無い改作であったと締めておこう。

  END



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