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満月夜には恐怖映画を
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ダムド・ファイルっていろんな意味で かなり本気だと思うんだ
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呪怨
レビュー
1999/日 監督/脚本:清水崇 監修:高橋洋 出演:柳ユーレイ(小林俊介)、三輪ひとみ(小林の妻)、三輪明日美(村上柑菜)、栗山千明(瑞穂)、洞口依子(瑞穂と柑菜の兄の通う学校の教師)、芦川誠(不動産屋鈴木)、大家由祐子(鈴木の妹響子)、藤貴子(佐伯伽椰子)、小山僚太(佐伯俊雄)、松山鷹志(佐伯威雄)
映画は、おばちゃんが線路を跨ぐ陸橋から降りてくるシーンから始まる。 そこらにあるような町の風景、朝のラッシュ時には開かなくなる小さな踏切のある2車線の道路から、少し入った路地の途中にその家はある。車さえ入れない路地の、向かいの家とはトタン塀囲いでかろうじて仕切られているような庭付きの二階建ての一戸建て。 だがその家にはヒト気が無い。玄関ドア、二階のベランダの張り出しのペンキは剥げかかり、延び過ぎた雑草と庭木もところどころに立ち枯れが始まっている。
一つ目の断片。小学校教師小林が家庭訪問に訪れる。妻は臨月の妊婦で夫婦仲は上々、暮らしは質素で穏やかだった。生徒の母親伽椰子には憶えがあった。大学時代暗いと皆から敬遠されていた女だ。その母とイラストレーターの父を持つ子供の名は俊雄。
玄関ベルを押しても返事はないが、門にも玄関ドアにも鍵がかかってはいない。ふと気がつくと浴室らしき窓から子供の手がにゅうっと突き出ている。 彼が入ったとたん鍵が閉まるでもない、怪異が起こるわけでもない。生徒の体には痣があり、某かの虐待を受けていたか、長く放置され続けたか・・・・・だが、彼がこの家に獲り込まれた瞬間なのである。
次の断片は初夏。二階の部屋に女子高生と家庭教師がいる。高校生は柑菜、健康的なイマドキの娘である。家庭教師は由紀、大学生で柑菜の親戚かもしれない。 他愛無いお喋りの合間、由紀は、微かに聞こえる物音が気になって仕方がない。彼女の大嫌いな猫が、何かを引っ掻くような。由紀はこの後音の正体を知ると同時に、その家の暗黒へと引きづり込まれるのだ。
学校の断片では、柑菜の弟の彼女が犠牲になる。
そして死体置き場の断片。奇妙な形に盛り上がった死体の前で刑事がつぶやく。 「こりゃー、心臓発作でしたなんて言い訳は・・・通用しねぇよなぁ」 解剖医が苦渋に満ちた表情で応える。 「こんな死体見た事ないですよ。混ざっていたのは別の人間の下顎です」
次の断片は、その母親がパートから帰ってきた時だ。 家にいるはずの二人の子供の姿も家庭教師の由紀の姿もない。中学生の息子の彼女からの電話の途中で、誰かが帰ってきた気配があった。ちょっと待っててといいつつ二階の子供部屋へと続く階段を見ると、そこには夥しい血が。 子供のどちらかに何かあったかもしれない。彼女は電話を忘れ、ゆっくりと2階を振り仰ぐが、そこには・・・。奇妙にひしゃげたその物体はゆっくりと母親の方に振り向いた。
最後の断片はその家を管理する不動産屋の断片である。
恐怖はちりばめられているのではない、そこに「落ちて」いるのだ。 絵的にはおそらく片付けられているはずの居間が乱雑に散らかっている。投げ出された薬箱、痣だらけの子供の膝にぞんざいに当てられた血の滲んだままのガーゼ、綺麗に整理された風呂場で見た血塗れの惨劇の幻覚、猫。 その部屋の外はまだ昼間なのだ。一階の奥にある、キッチンのガラスには陽光がさしているのだ。逃げ出すのは今しかないのに、その暗い部屋に男は引き止められていく。 脱出口はいつでも、恐怖の暗黒のすぐ脇にあるのに。 そこらで見かける恐怖映画のように、怪異は見えざる力によって強制的に閉じ込められた犠牲者に起こるのではない、ドアも窓もいつでも開いているのだ。
外はまだ昼間なのに、その部屋だけが妙に暗いなと思う瞬間、押入れの奥から聞こえる微かな物音が、いても立ってもいられないほど気になったり、すぐ隣の部屋にいるはずの兄弟が妙に静かになってたり。声をかけようかどうしようか、その時気がつきさえしなければ、見過ごしてしまうような恐怖。
どこかで読んだエピソードかもしれない、どこかで見かけた私自身の原風景なのかもしれない、それは私の同級生だったのかもしれない、・・・いや。 いつか見た悪夢だったのかもしれない。
ともかく夜中に一人で、部屋を暗くしてみる事だけはオススメしないでおこう。 これが、伽椰子の始まり。
by まいる
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